不自由さの中にある自由を信じて、外へ漕ぎ出していく。「libido:Fシリーズ episode:03 船の挨拶」

更新日:4月5日



千葉県松戸・せんぱく工舎に拠点を構える、theater apartment complex libido:。この場所で2021年5月から、所属する俳優による一人芝居「libido:F」シリーズを展開してきました。


過去2作品を経て、2022年4月にはいよいよFシリーズ最後の作品、「libido:F:船の挨拶」が上演されます。


上演まで1ヶ月を切った3月、「libido:F:船の挨拶」やこれまで展開してきたFシリーズにまつわる思いを、libido:代表・演出の岩澤哲野と「libido:F:船の挨拶」に出演する鈴木正也に聞きました。



一人だけど、一人にならない方法を、一人で探す


今回、鈴木くんはFシリーズにあたって、三島由紀夫さんが書いた「船の挨拶」という作品を選ばれました。この作品を選んだ理由を聞かせてください。


鈴木(以下S):実は、作品選びに当たって色々調べていたら偶然出てきた作品なんです。

この作品は「自分とは一体何者なのか」ということが軸にあると思っているのですが、その悩みは現代にも通じるものですよね。そして一生かかっても答えが見つからないような悩みでもある。

一人芝居という、自分一人の空間で、その糸口を見つけようとすることは面白そうだなと思ってこの作品を選びました。

三島由紀夫さんは日本を代表する文学作家の一人ですが、その作品を演じるということに対して、気負いというか、そういうものはありますか? S:今回が自分にとって良いチャレンジになるだろうなという気持ちはありますね。

あと先輩の俳優さんに、「今度、三島由紀夫さんの作品をやるんです」っていう話をしたら、「いいと思うよ!」って言ってくださって、三島さんの長編小説をいただいたんです。その時に、”三島由紀夫”の作品をやるってこういうことなんだなっていう気持ちになりましたね。


上演に向けて稽古を重ねている最中だと思いますが、実際に取り組んでみてどうですか? S:この作品は、基本的に一つの場面の中で物語が進んでいきます。なので、一見あまり大きな変化もないように見えるんですね。それがものすごくしんどい時もあります。正直、もうちょっと他の作品も含めて検討すればよかったかも、って思うこともあるくらい。(笑) あとはやっぱり、一人芝居ならではの大変さもあって。一人芝居は、ほとんどのセリフが相手のいないモノローグ(独白)です。そうすると、自分の内にどんどん入り込んでいくから、セリフも中にこもる感じになってしまって、自分が小さく縮こまってしまう。

どうしたらいいんだろうと思っていた時に、以前仕事をご一緒した方が「モノローグは、どうしても俳優が一人で完結させてしまいそうになる。だから、もうちょっと具体的な相手をイメージしてセリフを言うとか、空間を広く使うとか、自分を広げた方がいい」って仰っていたことを思い出して。

一人なんだけど、一人にならない方法を、舞台上では一人で探す、みたいな。見ている人がいるけど、空間的には自分一人しかいない。その中でこの空間をどう自分で作っていくか、ということを試行錯誤していますね。

S:そもそもこの作品を選んだ時に、コロナ禍もあって”内にこもって自分を見つめる”というテーマがいいなと思ったのですが、今は時代が変化してきているから、もう少し外に開いていきたい気持ちもある。 だからお話的にも、この空間だけの話に止まらないようなものにできたらいいなと思っていて。このたった2部屋のF号室の空間の中の話としてだけじゃなく、もっと広い世界の話というか、広いものを感じてもらえるような作品にしていきたいなと思ってやっていますね。

密な時間の向こうの、その先を見据えて

これまでFシリーズとして2作品をそれぞれの俳優さんと作ってきましたね。今回の作品作りはどうですか?

岩澤(以下I):正也がこの作品を持ってきたのが、結構早かったんですよね。去年の夏くらいだったかな。読んでみて、結構すぐに「いいじゃん、これやろう」ってなって。 ただ、これまでの作品ももちろん難しいところもあったけど、今回も難しいというか、やっていて苦しさはありますね。それは場面の変化の少なさとか、様々な理由があるんですが。 でも一方で、正也らしい作品だなとも思っている。正也も苦しんでると思うし、俺もどうやったらいいかすごく難しいなって思いながらやってるけど、この戯曲を正也がやることの可能性は、絶対に何かあるって思いながらやっていますね。その可能性に対する信頼はある。

この「船の挨拶」がFシリーズとしては最後の作品になります。今回、一人芝居というものに取り組んでみて、どんなことを感じられていますか? I:面白いなと思っていますね。それぞれの作品で、演出脳も全然変わるというか。もちろん、意識せずに自分らしくなってしまうところはどうしてもあると思うけど、対峙している人が基本的に一人なので、それぞれの俳優によってやり方や意識するところも変わりますし。三者三様な面白さをすごく感じていて、演出家としてやりがいも感じています。 ただ、まだちょっと明確ではないけど、今回の作品において、Fシリーズに取り組む意識みたいなものは、前の2作品とはちょっと違うかなとは思っていて。 それは、どんな違いなのでしょう? I:元々このFシリーズの目的として、自分たちの拠点であるせんぱく工舎F号室に、記録や記憶をちゃんと作っていく、この松戸という街に拠点があることがどういうことなのかということを、俺一人じゃなくてlibido:のメンバー皆と共有し合うということがありました。

その背景には、コロナ禍で外に出るということが難しかった状況下でlibido:にとって何が有効なのかを考えた時に、各メンバーとちゃんと向き合うことや、何かを一緒に積み重ねることをやってみようと考えたことがあった。 今、正也とは一緒にやっているところだけど、過去2作品ではそう考えていたことがちゃんと実現できたという実感があって。そういう意味で、Fシリーズ当初の目的は達成されるだろうという予感は既にしています。 その上で、徐々に時代の変化もあり、もうこもるだけの時代ではないとも感じていて。この作品は、こもるというニュアンスを含みつつ、その先を見据えた作品かなと思っていますね。 こもって、すごく密な時間を共有しつつも、未来を見ている。そんなジャンプアップの作品になるんじゃないかと思っています。これまでFシリーズを進行してきた中で、初めてその先を見据えた作品なのかなと。

不自由さの中から、新たな自由を見つける

もうすぐこの作品の上演も始まりますね。どんな作品にしていきたいですか? I:この物語って、”ルールに殺された”男の話なんじゃないかなって思っているんです。社会をより良くして成熟させていくために、様々なテクノロジーや仕組み、ルールが出来上がっていくんだけど、その反面、それによって殺される人たちがいるということが往々にしてある。それが分断に繋がったりしているんじゃないかって。 この物語の主役は灯台守で、本来であれば”守る”側の人間なんですよね。ただ、その”守る”ことに自分が耐えられなくなって、”守る”べきものの外側に、何かを求め始めた。このこと自体は、とても健全なことなんだと思うんです。 このテーマは今の社会とも接続するだろうし、この物語が、他者というものを考えるきっかけになったらいいなと思っています。 S:僕は…なんだろうな。実は、この作品をどういう形で届けるのが一番いいのかっていうことを考える時に、まだちゃんと自分が掴めていない部分っていうのがあるんです。もうちょっと、この物語と向き合う中で探さないといけないなと思っていて。 俳優個人としては、一人芝居って自由なものかと思ったら、割と不自由だなって感じていますね。全部自分でやらなくてはいけなくてタスクも多いし、達成しないといけないことも多い。 でも、そうした不自由さの中に自由さを見つけられたら、もうちょっと舞台空間に自分が存在しやすくなるんじゃないかなって思っているんですよね。今後、他の作品をやる上でも空間の使い方とかが全く変わってくるだろうし。

S:俳優としての成長というか…。それもあるんですけど、この作品を見ているお客さんたちも、作品を通じて「自由をどうやって見つけることができるのか」ということを考えるきっかけになったら面白いんじゃないかなと思っているんですよね。 I:そうだね。前に正也も言っていたけど、不自由さが、逆に自由さを見つけるきっかけになったりもする。俺もそういうものが描ける作品になるといいなって思っていて。

それは、演劇をやる僕らができることというか、ルールや何か決められたことからどう逸脱できるかということでもあると思う。既にある物事に対して、どう想像力を働かせられるか、そしてそれをどう世の中に提示できるか。 この作品が上演されてFシリーズが完結した後、これからのlibido:はどこにいくのでしょう。

I:どこに行くんでしょう。(笑)そのことも今、同時進行で色々考えていて、でもまだメンバーの皆に共有できているわけじゃなくて。この作品が終わった後に、改めてこれからどうしていこうかって皆で話していくことになると思います。 ただ、個人的な思いとしては、この1年間を経て、これから先、こもっていたらダメだっていう感覚は強くあります。いかに外に出ていくかっていう。 この2年間は、演劇というかアート業界にとっては、もちろん厳しかった一方で、ある意味守られた2年間だったとも思うんですね。これから先は、より一層厳しい世界になっていく。

だから僕たちも、内にこもるのではなくて外に出ていくっていう視野の中で、次の展開を作っていかなくてはいけないなと考えています。

「libido:Fシリーズ episode:03 船の挨拶」は、4/1(金)から上演スタート。1年間続いてきたFシリーズ最後の作品を、ぜひF号室に足を運んでご覧になってくださいね。 (文章:原田恵 写真:原田恵、大蔵麻月 協力:久芳真純)


 

「libido:Fシリーズ episode:03 船の挨拶

戯曲:三島由紀夫「船の挨拶」 演出:岩澤哲野 出演:鈴木正也


▶︎公演日程 2022年4月1日(金) 19:00  2日(土) 17:00 3日(日) 13:00/17:00● 7日(木) 19:00● 8日(金) 19:00● 9日(土) 13:00/17:00● 10日(日) 13:00/17:00  ※受付・開場は開演の30分前です。 ※上演時間は約50分を予定しています。 ●の回は各終演後約30分間のアフタートークを予定。

終演後に休憩・換気を挟みますので、参加はご自由にお選び頂けます。

詳細はこちらからご覧ください。 ▶︎チケット ご予約受付中! 一般 2,500円/学生 1,000円

事前精算をご希望の方> Pass Marketご予約ページ

当日精算をご希望・回数券をお持ちの方> Google formご予約ページ 会場:せんぱく工舎1階 F号室(〒270-2254 千葉県松戸市河原塚408-1)




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